ハラリ21Lessons〜21世紀の人類のための思考〜19章「教育」のノート

Yuval Noah Harari 「21Lessons  21世紀の人類ののための21の思考」レジリエンス『19 教育 変化だけが唯一不変』(河出書房新社)ノート

岩崎 美好(2022年2月加筆)

グローバル、AI、コロナパンデミック、、、
世界は大きく変わり、仕事の仕方、ライフスタイルも変わり始めています。
日本でも、文科省もこれまでの教育を変えていく方向に動き、学校の教科書も、大学入試も変わり始めました。

さて、では、私たちは、これから、どんな教育、どんな学びをしていけばいいのか?

その手がかりの一つとして、ハラリの「21Lessons」の「19教育」の内容を再度見直したいと思います。

ハラリの論考も手がかりに、私たちなりに考え、当塾の教育システムとしてのLEADメソッドを形づくり、具体的にこれから実践していきたいと考えています。

このコラムは、そのLEADメソッドの準備として、同書の内容をノートを取りつつ、考察をめぐらしていく記事になります。


#マーク:以下において、このマークの部分は、岩崎のコメント、それ以外は、本文からの引用です。

# この本は、帯書きによれば、このような本です。

『サピエンス全史』で人類の「過去」を、『ホモ・デウス』で人類の「未来」を描き、世界中の読者に衝撃をあたえたユヴァル・ノア・ハラリ

本書『21Lessons』では、ついに人類の「現在」に焦点を当てる。

・・・正解の見えない今の時代に、どのように思考し行動すべきかを問う

# 世界の現状と歴史動向を捉えて、非常に示唆に富む内容といいう印象を受けました。

リードでも、「A I時代の教育は、どうあるべきか」を考えながら、日々中高生の学習指導にあたってきましたが、この内容をさらに深めてくれる内容が多々提起されていました。

まずは、本書に即して、私が大事だと思った部分を引用しながら、コメントするノートを作ってみました。

教育にご関心ある方には、よろしければご覧いただければ幸いです。

#1:まずは時代認識が提起されています。

人類は前代未聞の革命に直面しており、私たちの昔ながらの物語はみな崩れかけ、その代わりとなる新しい物語は、今のところ一つも現れていない。このような史上空前の変化と根源的な不確実性を伴う世界に対して、私たちはどう備え、次の世代にはどんな準備をさせておけるのか? (P.335)

・今日私たちは、2050年に中国や世界のその他の国々がどうなっているか、想像もつかない。人々が何をして暮らしを立てているかも、軍隊や官僚制がどのように機能するかも、ジェンダー関係がどうなっているかも、まったくわからない。(p.336)

したがって、今日子供たちが学ぶことの多くは、2050年までに時代後れになっている可能性が高い。(P.337)

#2:現在の教育の問題点が指摘されていきます。

現在、情報を詰め込むことに重点を置いている学校が多すぎる。過去にはそれは道理にかなっていた。・・(中略)・・近代的な学校が設立され、子供たち全員に読み書きを教え、地理や歴史や生物学の基礎的事実を教えるようになったのは、途方もない進歩だった。(P.337)

それに対して21世紀の今、私たちは膨大な量の情報にさらされ、検閲官たちでさえそれを遮断しようとはしない。むしろ彼らは、せっせと偽情報を広めたり、無関係な情報で私たちの気を散らしたりしている。

・・(中略)・・世界中の人が1回マウスをクリックするだけで・・最新情報を手に入れられるが、矛盾する話があまりに多いため、何を信じていいか困ってしまう。その上、たった1回クリックするだけでアクセスできるものは他にも無数あるので、的を絞るのが難しく、政治や科学があまりに複雑に見えるときには、愉快な猫の動画や、有名人のゴシップや、ポルノに、ついつい切り替えたくもなる。

(P.337-338)

・そのような世界では、教師がさらに情報を与えることほど無用な行為はない。生徒はすでに、とんでもないほどの情報を持っているからだ。人々が必要としているのは、情報ではなく、情報の意味を理解したり、重要なものとそうでないものを見分けたりする能力、そして何より、大量の情報の断片を結びつけて、世の中の状況を幅広く捉える能力だ。(P.338)

## 上記は、非常に重要な指摘だと思います。

I Tの時代、情報は検索すれば、膨大な情報を取り込むことは可能です。また、A Iのよって、ビッグデータを統計的に解析して事柄を予想することは、人間より速く大量の処理が可能になってきます。

だとすれば、人間にしかできない能力=意味を理解する=創造するなどの能力を伸ばすことを、これからの教育では追求していく必要があるということではないでしょうか。

この時代に、詰め込み型・管理型(課題を一方的に課して問題処理能力だけを上げようとするもの)の「教育」をやっていては、自分の頭で意味を考え、課題を発見したり、創造的に工夫をしていくような次世代は育てられないのではないでしょうか。

#3:これからの教育の方向性が示されていきます。

<のしかかるプレッシャー>

・それでは私たちは何を教えるべきなのか?

多くの教育の専門家は、・・「四つのC」、すなわち「critical thinking(批判的思考)」「communication(コミュニケーション)」「collaboration(共同)」「creativity(創造性)」を教えるべきだと主張している。

・・・なかでも最も重要なのは、変化に対処し、新しいことを学び、馴染みのない状況下でも心の安定を保つ能力になるだろう。2050年の世界についていくためには新しいアイデアや製品を考えつくだけではなく、何よりも自分自身を何度となく徹底的に作り直す必要がある。(P.339)

・なぜなら、変化のペースが速まるにつれ、経済ばかりでなく、「人間であること」の意味そのものさえもが変化しそうだからだ。(P.339)

・そのような深遠な変化のせいで、人生の基本構造は一変し、不連続性が最も目立つ特徴となるだろう。太古から、人生は補完し合う二つの部分に分割されていた。まず学習の時期があり、それに労働の時期が続いた。(P.341)

・だが21世紀の半ばには、加速する変化に寿命の伸びが重なり、この従来のモデルは時代後れになる。人生はばらばらになり、人生の各時期の間の連続性がしだいに弱まる。「私は何者なのか?」という疑問は、かつてないほど切迫した、ややこしいものとなる。(P.341-342)

・これには途方もないレベルのストレスが伴いそうだ。(P.342)

・もしあなたが何か安定したアイデンティテイや仕事や世界観にしがみつこうとすれば、世の中は轟音を立てて飛ぶように過ぎていき、あなたは置き去りにされる危険を犯すことになる。・・(中略)・・経済的にばかりでなく、とりわけ社会的にも存在価値を持ち続けるには、絶えず学習して自己改造する能力が必要だ-----五十歳のような若い年齢では間違いなく。(P.342-343)

そのような世界で生き延び、栄えるには、精神的柔軟性と情緒的バランスがたっぷり必要だ。自分が最もよく知っているものの一部を捨て去ることを繰り返さざるをえず、未知のものにも平然と対応できなくてはならないだろう。

・・(中略)・・本を読んだり講義を聴いたりしても、レジリエンスは身につかない。21世紀に求められる精神的柔軟性を、教師自身がたいてい欠いている。なぜなら、彼ら自身が、古い教育制度の産物だからだ。(P.343)

## 上記もまた重要な指摘がされています。

『最も重要なのは、変化に対処し、新しいことを学び、馴染みのない状況下でも心の安定を保つ能力』

この能力をつけていくことがこれからの世界で生きていく世代を育てる教育の核心点であるとハラリは主張しているのではないでしょうか。

今日の日本の教育で中心課題と広く考えられている「偏差値を上げ、いい大学に入る」ことを目指す教育とだいぶ違うものが今世界では求められているということだと思います。

A Iの時代、つまり変化が激しい時代にあって、あるいは人生100年の時代にあって、常に新しいことを学び続ける力、そして、その中でも心をエンパワーし続ける力=レジリエンス(困難に耐える精神的な力)を身につけることが必要だということでしょう。

#4:人間がハッキングがされる時代に、自分自身の心の底から生きたい自分の人生を生きる力を育てる!

<人間をハッキングする>

人生で何をしたいのかわかっていなければ、代わりにテクノロジーがいとも簡単にあなたの目的を決め、あなたの人生を支配することになるだろう。・・・

スマートフォンに目が釘付けになったまま、通りを歩き回るゾンビたちを見たことがあるだろう。あなたは彼らがテクノロジーを支配していると思うだろうか?それともテクノロジーが彼らを支配しているのか?(P.345)

・バイオテクノロジーと機械学習が進歩するにつれ、人々の最も深い情動や欲望を操作しやすくなるので、ただ自分の心に従うのは、いっそう危険になる。コカコーラやアマゾン、百度、政府が、あなたの心や脳の操作の仕方を知ったとき、あなたは依然として、自己と企業や政府のマーケティングの専門家との区別がつくだろうか?(P.345-346)

・これほど手強い課題を成し遂げるには、自己のオペレーティングシステムをもっとよく知るために必死に努力する必要がある。自分は何者か、そして人生に何を望むかを知るために。・・中略・・

コカコーラやアマゾン、百度、政府がみな我先にあなたをハッキングしようとしている。・・・じつは私たちは、人間がハッキングされる時代に生きているのだ。

(P.346)

・自分という個人の存在や生命の将来に関して、多少の支配権を維持したければ、アルゴリズムより先回りし、アマゾンや政府より先回りし、彼らよりも前に自分自身を知っておかなければならない。先回りするときには、荷物をたくさん抱えていかないほうがいい。幻想は全て置いていくにかぎる。ひどく重たいから。(P.347)

##スマフォ(作られた情報)に支配されているゾンビになっていないかというのは、ものすごい警鐘乱打だと思いませんか。

私たちは、自分自身の価値観だと思っているものを実は大量の情報によって、あるいは世間の評判によって、そう思い込まされているのではないでしょうか。

これが危険であることは、第二次大戦のナチスの「第3帝国」のキャンペーンや帝国日本の「大東亜共栄圏」のキャンペーンを想起すれば、歴史的に容易に理解できることだと思います。

大事なのは、どんなに人間をハッキングするような情報操作をされても、自分の頭と心で、意味を考えて、自分の人生を生きられる力を次世代の中に育み、A I―機械化が進む時代だからこそ、人間らしい力を持った子どもたちを育ていくことではないでしょうか。

それが、対立と分断を乗り越え、佳き未来を切り開いていく平和な世界を作っていく道だとハラリは示唆してくれているように感じます。


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