709教養ゼミの報告

Liberal Arts Seminar @Lead
7/9憲法ゼミの報告 
by Miyoshi Iwasaki

 

*使用テキスト:岩波ブックレット 伊藤真著「誰のための憲法か?」
まず、全員で憲法についての問題意識を出し合ってから、テキストの各章を担当者が報告した上で対話をするという形で進めました。

*各自の問題意識

・改憲で何が変わるかが問題だと思う。(大学生)
・9条が変えられて、「国防義務」規定が入ってくることが問題だと思う。(大学生)
・改憲ではなく、棚上げにしたらいいと思う。憲法について考える人を増やすべきだと思う。(受験生)
・立憲主義がなくなることに危機感を覚える。(社会人)
・憲法下でも在日の人に政治的権利がない状況が続いていること自体、日本人の責任だ。(社会人)
・知らないうちに、憲法の内容が大きく変えられていくことに危機感を持つ。(社会人)
・政治について考えないようにさせられている感じがする。(大学生)
・改憲の動きに危機感はあるが、大学でも「教育現場では中立が大事」と教えられている。(教員を目指す大学生)
・高校生も政治について知った方が良いと思う。(高校生)

*テキストの内容の学習(各担当者から報告)
・第1章:誰のため、何のための憲法下(=立憲主義について)
・第2章:平和主義から「戦争のできる国」へ(=平和主義について)
・第3章:人権の縮小、義務の拡大(=基本的人権について)
・第4章:なぜ96条を変えてはいいけないか(=改憲手続きについて)

*テキストの各章の内容に関連したいくつかの論点
#「日本古来の伝統」を理由に改憲を進める考え方があることをめぐって
・立憲主義を西洋文化として「日本」に合わないものとする考え方は危うい
・「日本」という主観的な概念で問題を立てると、「これが日本」と価値観を押し付け、多様性を排除することにつながるのではないか

#人権の意識について
・近代の立憲主義が個人の尊厳を守るという観点で作られてきたのに、今の若い人は「個人<国家」と考えている人が多いのでは。
・人権について教育が教えていないのではないか。
・一方で、学校現場では、道徳教育が強化され、採点化する方向にきている。

#自衛隊が国防軍になることについて
・国防が国民の義務になると戦争に駆り出される危険性があるのでは。
・治安出動で、国民を対象にすることになるが、自衛隊に入った人がそれをやらされるのはいかがなものか。

*学習・論議を通じての各自の気づき
・憲法、特に9条について勉強して認識をさらに深めたい。(大学生)
・9条は、日本の誇れるところなので、守って欲しい。(受験生)
・自民党の改憲案を知ることが大事。立憲主義を否定するものであり、ある種のクーデタとも言える。(社会人)
・色々な立場の人の話を聞けてよかった。(社会人)
・立憲主義の重要性がよくわかった。憲法の問題を自分ごととしてとらえ、自分と違う立場の人への想像力を持って考えていきたい。(社会人)
・留学で日本から離れるが、自分がどうするか考えたい。(大学生)
・改憲の動きが進むことに危機感はもつが、自分ではどうしたらよいか。
・中高で知識として憲法について習ったが、意味はわかっていなかった。自分の頭で考えるようにしたい。(大学生)
・自民党案、やばいな!(高校生)

*総評
大学生・高校生・社会人が、これだけ集まって、憲法をテーマに論議を始めたこと自体に今日的意味があると思います。
ゼミで実感したことは、各年代で憲法について習っきたこと自体に差があり、そして問題意識も多様なものであるということでした。
その中で、多様な人が集まって、憲法の論議を通じて、日本の国や社会をどうしていくのかを話し合うことをスタートできました。

参加者の皆さんには、あらためて感謝したいと思います。
休日に、直接には受験・成績・仕事につながるわけでもない教養ゼミにお集まりいただき、しかも参加費まで出していただいて、集中した論議に参加していただきましたことに。

でも、私はこうした自主ゼミに集まってくれる市民、とりわけ若者がいることに、大きな希望を感じています。
ゼミの中で学生さんたちの何人かが語っていましたが、憲法や政治について学校ではきちんと教えられていないこと、またそう問題を語り合う場がないことが、今日の日本の課題そのものかもしれません。市民同士が、それぞれの頭で考えて、自分たちの社会・国をどうしていくのが良いのかを、意見・立場の違いを認め合った上で、丁寧に対話を積み重ねていくような、民主主義の基本を今まさに作っていく必要があるということでしょう。戦後民主主義ー憲法の危機の時だからこそ、民主主義とは何かという原点をしっかりつかみ直して、この国をどうしていくのかをしっかり一緒に考えていく必要がありそうです。

自分も塾をやっているので自分の責任ももちろん外すわけにはいきませんが、今までの教育は、中高ではテストの点数・偏差値・大学合否結果、大学では就活結果、社会では経済の数字の結果などだけを見て良し悪しを判断する傾向があったと思います。
もちろん、いわゆる受験勉強や中高・大学での成績もしっかり取れるようにすることは必要ですが、それだけではなく、きちんと社会人としての基礎力(主体性・思考力・つながる力)や主権者としての意識を持って、社会を責任ある市民として共に担い、全ての人が幸せに生きれるような状況を意識的に作っていくような人を育てることが、必要ではないかと考えています。

そういう観点でしっかり主体的に生きいく人を育てられる教育を一歩でも進めたいと願ってきましたが、今回のゼミは、そうした手応えが実感でき、その意味でまさに大きな希望を見出すことができました。色々な年代の人、立場の違う人が集まって、互いに尊重し合いながら、対話を進めていく場をさらに丁寧に積み重ねていきたいと思います。

ゼミの目的は、憲法改正について、それぞれが自分の頭で問題を考え、学習・対話の中で、問題意識・認識を各自が深めていくということにあります。何らかの結論を出して、統一見解を出すものではありません。その中で、論文を読む力・まとめてプレゼンをする力・人の話を聞く力・自分の考えを他者に伝える力・対話をする力などを養ってもいきます。
市民としての教養をみんなで伸ばすことを願っています。

では、次回もがんばりましょう!

次回ゼミについて
8月20日(日) 13:00開始
・テキスト:岩波ブックレット 井上ひさし「二つの憲法ー大日本帝国憲法と日本国憲法」
〜テキストから、新旧憲法の比較、日本国憲法制定過程の歴史などについて学んでいきたいと思います。

#参考文献
・岩波現代文庫 古関彰一「日本国憲法の誕生」
〜憲法制定過程が実証的にわかりやすく、まとめられています。詳しく憲法・戦後史を知りたい人にお薦めです。
・鉄筆文庫 「日本国憲法 9条に込められた魂」
この中に、憲法調査会「幣原先生から聴取した戦争放棄条項等の生まれた事情について」(平野三郎記)が収録されています。
〜9条を発案したとされる幣原首相の考え方がよくわかります。9条を深く考えたい人にお薦めです。

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