大学入試:数学の読解できていますか?

数学科の岸谷です。
今回は高校数学の取り組み方について何回かに分けてお話していくシリーズの2回目です。

今回のテーマは『数学力=数読力』です。

数学の読解、きちんとできていますか?

読み替えや言い換えを意識する

早速数学の話を、と行きたいところですが、まずは別角度から。次の日本語を英訳できますか。和文英訳というやつですね。中学3年か高校初等範囲程度の文法で十分できます。

『赤いドレスを着た女性の言葉を聞いたとき、耳を疑った』

いくつか例はありますが、一例として次のような英文になりますね。

 『I couldn't believe my ears when I heard what the woman in the red dress said.』

ここで注目したいのは利用している文法事項ではございません。(英語のブログではありませんからね。)

英文をよ~く見てみると、これ、直訳していないことに気づきますでしょうか。

具体的には『着た』、『疑った』、『言葉』に相当する直訳した単語は英文にはありませんね。もちろん、直訳した単語を用いて表現することも可能でしょうが、そうすると(英語側からみると)何とも不自然な英文になってしまいます。

したがって、自然な英文にするためには、まずは日本語を一度、別の表現に読み替える必要があります。『着た』は『中に』、『疑った』は『信じられない』、『言葉』は関係代名詞を用いて『言ったこと』といった具合です。

では、数学ではどうでしょうか。次のような例を考えてみましょう。

『xに関する二次方程式 x2-2mx-m+2=0が異なる2つの正の解をもつ定数mの範囲を求めよ。』

この問いをみて、二次方程式を解こうとしてはいけませんね。先ほどの英文で言えば、直訳しようとしているのと同じです。解いてみるとわかりますが、因数分解が出来ないので解の公式で無理やり解くと、とても不格好な式が表れてどうにもできなくなってしまいます。ここでは、以下の2通りのいずれかに読み替えて別の問題に帰着させる必要があります。

  • 二次関数 y= x2-2mx-m+2がx軸の異なる2点で交わる条件を考える。
  • 2つの解をα、βとすると、ともに正となるための条件は和α+βと積αβが正であればよい。

それぞれ、以下のような解答になります。

例1解答)判別式=(-2m)2-4(-m+2)>0かつ放物線の軸:m>0かつy切片:-m+2>0より、1<m<2

例2解答)判別式=(-2m)2-4(-m+2)>0 かつ解と係数の関係よりα+β=2m>0かつαβ=-m+2>0より、1<m<2

いかがでしょうか。数学といえど、まずは書かれている日本語を理解して、別の形に読み替える力(数文和訳とでもいいましょうか)=数読力が必要なんです。近年共通テストで問われている形式は、ここに国語的な読解力がプラスされていますが、この点はまた別の機会に詳しくお話ししましょう。

思考過程を大切にする

 よく受ける質問として「先生、こんな解答思いつかへんで」「こんな解き方どうやったら考えつくんですか」といったものがあります。気持ちはとてもよくわかります。中高生だった当時は私もそう思う解答がたくさんありましたもの。それも無理はありません。『解答だけみる』というのは、読み替え・書き換えをするための大事な大事な思考の部分をすっとばしているからですよ!数学はこの読み替え書き換えに至る思考過程がとても大切です。勉強するときに強く意識してほしいのは思考過程を身に着けるということです。余談ですが、問題集や参考書を選ぶ際に、この思考過程がどれだけ充実しているかはひとつの指標といえるでしょう。

もっとも短い入試問題として有名な2006年京都大学で出題されたこちらの問題

『tan1°は有理数か』

解答をご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、先ほどの数読力の観点から、今一度考えてみましょう。

・・・いや、待てと、読解も何も短すぎませんか?と思いますよね?ですが、数学的に読み解くには十分です。わかっていることをまず列挙します。これ、超重要です。ここからどんどん展開していきます。

  • この問いは証明問題であること
  • 有理数に関する命題であること
  • tanという三角関数に関する問いであること

このあたりですね。非常に短い文章ですが、数学的にはこれだけ多くの情報が詰め込まれています。精一杯、数読力を駆使すれば、これだけ引き出せるのです。(以下、難しくてわからなければ、★まで飛ばしていただいて大丈夫です。)

 まず、高校数学で①証明の手法といえば、限られています。背理法、対偶証明法、帰納法、不等式評価などです。ましてや、②有理数に関する命題、、、有理数・無理数を用いるとなれば、これまでに経験してきた√2が無理数であることの証明・・・有理数と仮定して矛盾を導く背理法がまず思いつきます。③の三角関数でtanについて使えそうなものは何でしょう。定義に当てはめる、三角関数の相互関係、傾きとみて図形的に処理する、加法定理などですが思い出してください。背理法で用いた考え方=有理数の範囲であれば、四則計算は必ず有理数に収まる、ということを。となれば、用いるのはtanの四則計算である加法定理ですね。

★実際の解答はここではあえて紹介を避けます。各自でこの思考過程をたどり、自力でやってみるといいでしょう。しかし、この問題が解けるようになることにはあまり意味がありません。(同じ手の問題はどの大学でも二度と出ないでしょう。)問題を通じて思考過程をていねいに追うことで、数学的にどうやって読み解き、どうやって読み替えや書き換えているのか、その感覚を鍛えることが重要です。

ご安心ください。いわゆる超難問というものを除き、天才的なひらめきやとてつもない超解法などは必要ありません。(そして、そんな問題は解けなくても合否には影響しません。ほとんどの人が解けないのですから。)すべては、数読力を鍛えることでちゃんと解答にたどり着けます。

数式の意味を読み取ることも数読力

京大を合格する生徒だって、はじめは皆さんと同じ教科書・フォレスタや4STEPからはじめているんですね。でも、合格する人とそうでない人では先の問いで用いたtanの加法定理の式からどれだけ意味を読み取れているかには大きな違いがあるかもしれません。tanの加法定理がtanのみの四則計算だけで構成されていると、普段の学習で気付いていなければ、背理法との組み合わせも思いつかないかもしれません。

数式は一見するととても無味で無機質な印象を持つかもしれませんが、じっくり見るといろんな気付きがあるものなのです。普段の学習を単なる作業や暗記としていてはとても勿体ないように思います。問題集の問題をひたすら解くのも大事なことですが、式から意味を読み取る訓練を意識的に行うことで、式から文章への読み替え書き換えの力も付けられます。入試本番ではやはり、これらの数読力が必要になる場面が多く見受けられます。ぜひ、今後の学習では意識的に取り組んでみてください。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。また次回のブログをお楽しみに。


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