トランプ氏当選情勢をどう教えるか?

【教育のあり方を考えるブログ】 20161111  岩崎美好

<政治的な選挙結果は事実として見据えつつ、人間のあり方としては差別や排外主義を許すまじと、きっぱり伝えたい> 

アメリカの大統領選で、トランプ氏の勝利が確定した。教室で何人かの高校生や先生たちと話をしていると、不安に思っている人が多かった。

 その不安は、トランプ氏が語っていた女性への差別、ムスリムやラテン系、アフリカ系などのマイノリティに対する差別・排外主義、そして日本に対する軍事負担の増加の懸念から来るものが多かった。

 そうした差別・排外主義は、人間の尊厳を損なうものであり、絶対許してはならないと私は強く思うし、アメリカでそれを大統領候補が煽るというのはとんでもない事態だと思う

 確かに、トランプ氏が多数を獲得した背景には、グローバリゼイションの中でアメリカの産業が空洞化し、白人の中間層以下の生活がよくない状況にあったということがあるだろう。トランプ氏が、その層に訴えて、移民の排斥やTPP反対など反グローバリゼイションの訴えをしたことや、アメリカが世界の警察の役割をやめて軍事的世界から撤収する方向を打ち出したことが、多数を獲得することにつながったと言えよう。

 しかし、経済=生活状況やそれをなんとかしたいという人々の要求があるとういう政治情勢は、客観的には見据えるとしても、状況が良くないからといって、ムスリム・ラテン系・アフリカ系などマイノリティ、あるいは女性に対する差別など人間の影のような意識を煽っていくというのはやはりそれは人類が到達した価値観とは違うのではないかと、しっかり批判していく必要があるはずだ。30年代のドイツで、経済・生活状況が悪かったので、ユダヤ人を差別するヒトラーを選んだことが正しくなかったように。

 現に、選挙後には、差別の動きがアメリカ社会で噴出しているようだ。以下は、若干の例。

(東京新聞)トランプ氏暴言で学校に影 移民やイスラム教徒へいじめ http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201610/CK2016103002000117.html

 

 また、一方では、トランプ氏の人権を損なう姿勢に対して、アメリカ各地で反トランプのデモも起きている。アメリカの中でも、差別・排外主義に抗して、事態を打開しようという人も大勢いる。

 こうした状況の中で、今私に問われていることは何かを考えてみたい。今回の大統領選も数ヶ月前のイギリスのEU離脱も、大きくは、グローバリゼイションの中で、英米の国民の生活状況がよくないことに対する反グローバリゼイションの動きと言えよう。グローバリゼイションが国家の壁を低くする、あるいは無くしていく動きであることに対して、この2つの動きは、逆に国家の壁をもう一度立てて、国民の生活を守って欲しいという願いから出てきたもの。つまり、国家を見直す=ナショナリズムの再強化とも言えるかもしれない。

 イギリスは、世界帝国であることをだいぶ前にやめたが、アメリカも世界に影響力を及ぼす帝国であることをもうやめて、自国のことに専念するということだろう。第二次世界大戦後の世界が大きな転換点を迎えている。

 グローバリゼイションの中で、格差が広がり、世界の多く人たちの生活がままならない中で、国家の役割が見直され、ナショナリズムが再度強化されているとしたら、何に気をつけるべきだろうか。

 近代のナショナリズムは、確かに国民という共同体を想定し、その国民の生活は守るという側面はあった。今、英米の選挙結果で示されているのは、この側面。

 しかし、ナショナリズは、反面、「自国民」以外に対して、差別・排外主義を煽り、国家間の利害の対立から戦争にいたることも多かったのが、近代の歴史だ。

 だとしたら、確かに世界の人々の生活を悪化させる新自由主義的な経済第一のグローバリゼイションは批判していくべきだが、もう一方、ナショナリズムの影の部分ー差別・排外主義や戦争ーともしっかり向き合って、まず自らの内にそういうものを許す影がないか、そしてそうではない光に転ずる道は何かを考えつつ、目の前の生徒や人々と語り合っていくことことがまず大事ではないか。

 以上のようなことを考えると、今、私としては、当面、以下のようなことを生徒たちと語っていきたい。

1)グローバリゼイションの現実とナショナリズムの台頭の世界の動きをきちんと理性的にとらえ続けよう。

2)グローバリゼイションやナショナリズムの影を部分(=他者の存在を顧みず自己の利益だけを追求するようなあり方や差別・排外主義、戦争への動き)をしっかり見据え、まず自分自身の影を見据えることから始めて光に転ずる道を考え続けよう。

 差別・排外主義を無くしていくためには、その現場で、「その差別はNo!」と言い続けることだと思う。アメリカの例を見ても、差別的言辞に対してそれを上回るように許さないという声をあげていかないと、人を差別し傷つけてもよいという空気ができてしまうのではないか。差別意識は、積極的に差別しようという人はそんなに多くはないが、そういうものを容認していくことで広がってしまうのではないか。したがって、気づいた人が、「それはNo!」と言い続けて、差別を許さず、人間を大事にする社会を作っていくものだろう。それを私たちが常に意識しておくことだ。

3)人類が歴史の中で培ってきた大事にすべき価値観、つまり「人の命、人権、平和こそ大事にされるべきものである」ということをしっかり自分の中に打ち立て、状況に流されず、自らがしっかり自立しつつ、世界の人々としっかりつながり、そういう価値観を持った世界を、自分がいる場所=今ここで作っていこう。

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